WBC台湾戦の鳥谷・伝説の二盗は合理的? 得点期待値の観点から考える

2020年5月13日

こんにちは、ごんごんです。
前回、野球の得点期待値の記事を書きました。

得点期待値の概念がわかっていると、盗塁やバントという小技の有効性という野球好きには議論が耐えなそうなテーマについても一応の結論を出すことができます

今回は、もはや伝説になっている2013年のWBC台湾戦・鳥谷選手の盗塁(二盗)を題材に議論を進めていきます。

鳥谷選手の伝説の二盗とは?

鳥谷(元阪神)選手の伝説の二盗とは、WBCの2013年大会の台湾戦、9回二死一塁からの盗塁です。

両国の息詰まる投手戦の末、2-3と一点ビハインドのまま、日本は最後の攻撃となる9回表を迎えました。
先頭バッターの稲葉選手が凡退し一死後、鳥谷選手が四球を選び出塁。
続く長野選手も凡退し、二死一塁で井端選手がバッターボックスに入ります。

好調な井端選手ですが、最終回の二死一塁ということで客観的に見てかなり厳しい状況と言わざるを得ません。
「井端選手につないでもらい、連打でなんとか同点を」というのが私も含めてリアルタイムで観戦していた人の考えだったでしょう。

そんな手に汗握る中、一塁走者の鳥谷選手が初球から二盗を仕掛けます。
ギリギリのタイミングでセーフとなり、二死二塁となった直後に井端選手の中前打で同点に追いつきます。
球場は歓声に包まれ、解説者も大興奮、野球を今まで見てきた中で、最も興奮した瞬間だったと思います。

結果的に延長に入った後、逆転勝利を収めることができました。

得点期待値的な観点で分析してみる

鳥谷選手の二盗を得点期待値の観点から分析してみます。
まず、状況別得点期待値の表をご覧ください。
(状況別の得点期待値については、下記の記事で説明していますので、そちらをまず読んでみてください。)

鳥越規央「勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス」

今回の状況は、二死一塁でしたので得点期待値は緑で囲った0.214です。
盗塁が成功すると二死二塁となりますので、得点期待値は0.321に上昇します。
盗塁で期待値が1.5倍に上昇する一方で、当然盗塁に失敗したらゲームセットですので得点期待値は0です。

図で表すと下のようになります。

(状況としては1点ほしい場面ですが、計算の便宜上、以下では期待値を最大にするという前提で計算します。)

盗塁に成功する確率が50%だとすると、盗塁を試みた場合の期待値は0.321×0.5 + 0×0.5 =0.1605となり、盗塁前の期待値である0.214を下回ってしまいます

盗塁する場合の期待値と、盗塁しない場合の期待値が等しくなるのは、盗塁成功率をpとすると、0.321p=0.214から、p=0.667となります。
すなわち、盗塁成功率が66.7%以上ならば盗塁を試みた方が得点期待値は上昇するという場面だったということがわかります。

ちなみにですが、鳥谷選手の2013年シーズンの盗塁成功率は0.682(68.2%)ということで、わずかながら66.7%を上回っています。

鳥谷選手のすごさについて一言言いたい

分析の結果、あの時点での鳥谷選手の二盗は得点期待値を上昇させるという点で合理的です。

しかし、あの極限状態で当然そんな計算はしていないでしょう。
さらに言えば、盗塁失敗した場合はゲームセットとなり敗退に直結するため、戦犯として叩かれる可能性が高い場面です。

そんな中で、リスクを積極的に取りにいった鳥谷選手の姿勢に私は感動を禁じえません。
私ならそんなリスクを負わずに塁上でじっとして、連打を待っていたでしょう。
得点期待値も大事ですが、統計的なデータを超越したプレーが人々を震わせ、目頭を熱くするのだと思います。

セイバーメトリクスの発展で合理的な野球が導入されていますが、こうした熱いプレーを結果論として批判してほしくないと強く思います。(今回は合理的な盗塁でしたが)

まとめ

鳥谷選手の伝説の二盗をテーマに得点期待値について執筆しました。
まとめると、あの場面では66.7%以上の盗塁成功率なら期待値は上昇するという場面で、鳥谷選手の盗塁成功率を考えると盗塁するのは妥当だった、となります。

しかし、上でも書いたように得点期待値を前提に野球を行うことで、勝利には近づくかもしれませんが選手の積極的で見る人に感動を与えるプレーの機会が減るのではないかとの懸念もあります。

プロ選手として勝利を貪欲に追求するのは当然ですが、一ファンとしてはセオリーに真っ向から対立する熱いプレーも見たいと思う今日このごろです。

最後に千葉ロッテマリーンズに移籍された鳥谷選手の今後の活躍を期待して筆を置きたいと思います。

鳥越 規央 (著), データスタジアム野球事業部 (著)