トイレットペーパーの買い占めをゲーム理論と予言の自己成就から説明したい

こんにちは、ごんごんです。

2月末頃から、スーパーやドラッグストアからトイレットペーパーが姿を消しました。
発端はSNSでのデマで、メーカーや政府も在庫は潤沢にあると強調しましたが、実際に棚から在庫がなくなる様子やテレビでの報道が輪をかけ、あっという間の出来事でした。
小さい頃に習った近代史でオイルショックによるトイレットペーパーの買い占めというのは記憶にあったのですが、まさか現代にこんなことが起こるとは。

今回はトイレットペーパーの買い占めという事象を「ゲーム理論」と「予言の自己成就」という観点から解説したいと思います。

デマ拡散の起点は個人のSNS

トイレットペーパーの在庫が枯渇するという情報は、個人のSNS発だと見られています。
発信した個人は確かに不注意でしたが、今更どうしようもないのでここで批判・意見を述べるのは避けたいと思います。

現在の情報拡散力は2002年のSARS時代の68倍になっており、SNSの誕生によって情報爆発と読んでも差し支えないくらい現代社会は情報が氾濫しています。
詳細は下記をご参考に。

今回は主テーマではないので割愛しますが、SNSの運用や情報への接し方は慎重にならないといけませんね。

買い占めに走る心理をゲーム理論の観点から説明

「ゲーム理論」とは、自分以外の相手がどのように行動するのかを加味して、自分の最適な行動を決定するための理論です。

例えば、ビールメーカーが新しいビールを開発しようとした際には自社のことだけでなく、他のライバル企業が追随したり、既存の商品を値下げしたりするという対抗策を取ってくる可能性があります。
特に数社がシェアを握っているようなビール業界や自動車業界のような寡占業界では、自分の行動が相手にどのような影響を与えるのかを考えて戦略的な行動を普段からとっています。

以下では、ゲーム理論の中で有名な囚人のジレンマを説明し、買い占めの原理を説明します。

囚人のジレンマ:疑心暗鬼が最善の結果を遠ざける

ゲーム理論の有名なモデルの1つに囚人のジレンマがあります。
共犯で逮捕された2人の容疑者がいて、バラバラに取り調べを受けています。
前提条件を箇条書きにします。

  • 容疑者の2人は連絡を取り合うことができない
  • 両方が容疑を否認した場合はそれぞれ懲役2年
  • 片方が否認、片方が白状した場合には、白状した容疑者は釈放されるが、否認した容疑者は10年の懲役
  • 両方が白状した場合は、それぞれ5年の懲役

この前提条件を表にしたのが下の図になります。

囚人のジレンマのイメージ図

AとBの立場から上の表について考えてみます。
自分のことだけ考えるならば、自分が白状、相手が否認している場合、自分は釈放されるのでペナルティが課されることがなく最良の選択に思えます。

しかし、ゲーム理論では相手の行動を考慮しないといけません。
今回のケースはAとBが同じ条件(対称)ですので、相手も同じことを考えています。
自分だけ白状して、相手が否認するということは現実には起こり得ないため、両方が白状して懲役5年という結果にたどり着いてしまいます。
本当は両方が否認していれば懲役2年で済むのですが、連絡は取れないため両方にとって悪い結果になってしまいます。

仮に連絡が取れ、否認すると約束した場合でも、相手が裏切って白状するのではないかという疑念は絶えません。
結局疑心暗鬼になってしまい、懲役10年よりは白状してしまったほうがいいという結論に達するでしょう。
本当はもっといい選択肢があるのに強調できないことで、ジレンマというにふさわしい結果に陥ります

買い占めを囚人のジレンマに応用

さて、囚人のジレンマをトイレットペーパーの買い占めにあてはめて考えてみます。

前提として、トイレットペーパーはほとんど日本国内で生産されており、在庫もあるため多少の操業停止でも供給面は問題ないとします。
また、需要に関しても日本人のトイレットペーパー使用量が増えるわけではありません。(在宅勤務で自宅の使用量が増えるというのはありえますが)

上記の前提のもとでは、全員がいつも通りの行動をとればトイレットペーパーの在庫を考えると全く問題は発生しません
しかし、トイレットペーパーがなくなるかもしれないという噂が流れ、テレビやSNSで実際に店頭から姿を消した場面を目撃すると不安になります。
自分自身は全員が買い占めをしなければ平常運転でいられるとわかっていても、周りの人が買い占めをするとトイレットペーパーがしばらく手に入らないかもしれません。
結果として、非合理的とわかりながらも買い占めに走ってしまいます

こうした疑心暗鬼はまさに囚人のジレンマそっくりですね。
政府や業界もこうしたことを想定して、在庫は潤沢だとアナウンスを繰り返しましたが、一度パニックになった疑心暗鬼はなかなか払拭できません。

予言の自己成就とは?

「予言の自己成就」とは、根拠のないデマなどでも大勢が盲信して行動を取ることでデマが現実化してしまう現象を指します。

よく語られる例としては、株や不動産のバブルが多いのではないでしょうか。
「株価が上昇を続ける局面」というデマが広がり、投資家がそれを信頼した場合を考えます。
株価上昇の根拠は全く無いのですが投資家がそれを信じている限り、「株が上がるから今のうちに購入し、高値で売り飛ばそう」という動機が働きます
結果として、株を買い求める人が増えるため、株価は上昇し、デマが現実のものになります。
これが予言の自己成就です。

トイレットペーパーの買い占めも全く同じ原理が働きます
「トイレットペーパーが店頭からなくなる」というのは本来はデマでしたが、実際に不安に思った人が買い占めを始めることで全体として理性的な判断ができなくなるため、デマが現実化してしまうのです。

特に、昨今はSNSの爆発的な拡大もあり、こうした事象が起きやすくなっているのではないかと感じています。
SNSをはじめとした情報爆発、インフォデミックについては下記の記事で書いていますので、ご参考にどうぞ。

まとめ

トイレットペーパーの買い占めについて、ゲーム理論(囚人のジレンマ)と予言の自己成就という観点で説明をしました。
概略は以下のとおりです。

  • みんなが買い占めをしなければ平常運転だが、抜け駆けする人がいるのではという疑心暗鬼から「囚人のジレンマ」状態に陥り、不合理ながらも買い占めに走ってしまう。
  • トイレットペーパーがなくなるというのは根拠のないデマであるが、みんながデマを信じることで買い占めに走りデマが現実化する。これを予言の自己成就という。

トイレットペーパーがないというのは深刻な状況ですが、現実の事象を学問的に考えてみると理解が深まるかと思います。
少しでも学びになれば幸いです。