コロナウイルスの全数検査の是非を確率・統計的に考える。アクチュアリー的視点から

2020年3月9日

こんにちは、ごんごんです。

巷を騒がしているコロナウイルスですが、発熱などの症状があっても検査を受けられないということが問題となっています。
発熱などがある人は自分の体の心配と、周りの人に移さないかという不安で検査を受けたいという気持ちでいっぱいでしょう。

しかし、正確でない検査はかえって混乱を生むことがあります。
今回はアクチュアリー数学でも頻出のベイズの定理を用いて、制度があまり高くない検査の注意点を説明します。

陽性反応が出た際に、本当に感染している確率は?

まずは、数式を使わない簡単な説明をしていきます。
以下のような条件を仮定してみます。

・日本人の0.05%(数万人)がコロナウイルスに感染している
・検査の精度は95%

検査の精度が95%というのは、次のような意味です。(実際は感度と特異度という指標があり、もう少しだけ複雑です)
感染者に対しては、95%の確率で陽性反応がでるが、5%の確率で陰性と判断してしまう。
非感染者に対しては、95%の確率で陰性反応が出るが、5%の確率で陽性と判断してしまう。

こうした条件で、検査を受けた人が陽性と診断されました。
その場合、本当にその人がウイルスに感染している確率は何%でしょうか。

精度が95%ですので、「95%なんじゃないか?」と思いませんでしたか。
この場合、本当に感染している確率は約1%に過ぎません。

アクチュアリー数学で頻出のベイズの定理

上の計算結果は、かなり意外だったのではないでしょうか。
具体的に計算するには、アクチュアリー数学でも頻出のベイズの定理を利用します。

前述の条件を図示すると下のようなイメージになります。
罹患者は0.05%なので本当は比率が異なりますが、気にしないでください。

左側の①、②がウイルスに感染している人です。
右側の③、④が非感染者を表しています。
また、②、③は検査結果に誤りが生じています。

さて、検査を受けて陽性反応だったのは①と③です。
陽性反応が出て、そのうち実際に感染しているのは①です。
つまり、求める確率は①と③の合計に占める①の割合で、下のイメージです。
(①は0.05%なので本当はもっと細長いと思います)

この図を見ると明らかに分母が大きいのがわかり、本当に感染している確率は低そうなことがわかります。
実際の計算は①が0.0005×0.95=0.000475、③が0.9995×0.05=0.049975ですので、求める確率は0.00942となります。

ベイズの定理の公式

ベイズの定理の公式は次のようになります。(数学苦手な人は飛ばして結構です)
Pは確率を表し、P(A1|X)とは、「Xが起こったという条件の下で、A1が起こる確率」と定義します。
A1は罹患している確率、A2は罹患していない確率を表し、Xは陽性と判定される確率です。

上記の式は難しそうですが、上の例を考えると理解が深まりませんか?

検査精度が99%だったら?

ちなみに罹患率はそのままで、検査精度が99%に変わった場合はどうでしょう。
その場合の陽性反応が出て、実際に罹患している確率は4%に過ぎません。

このような状況を解消する(実際の精度を上げる)ためには、罹患率が上昇するか、検査精度が100%に限りなく近づくしかありません。
しかし、実際には検査精度を上げてもウイルスの変性や、非罹患者を誤って感染者と判断してしまう確率が上昇してしまいます。(次の「感度と特異度」を参照ください)

こうした結果をみると、情報が出そろってない中でむやみやたらに検査することがかえって混乱が広がるようにも思います。

感度と特異度

上では簡略化して、「精度」としましたが、実際には「感度」と「特異度」という指標があります。
感度とは、罹患者を正しく陽性と判断する確率を指し、特異度とは非罹患者を正しく非罹患者と判定する確率を指します。

上記の例では感度と特異度を95%や99%で計算をしましたが、PCR検査では感度が50%程度(最大70%程度)、特異度は99%以上とされています。
そして、罹患者と非罹患者の保菌数分布が分離できない(重なっている)ため、感度と特異度の両方を上げることはできません。
現実的には、感度と特異度のバランスをみて妥協点を決めるしかありません。
この点の決め方についてはROC曲線というのを書いてみるという手法がありますので、興味がある方は調べてみてください。

おわりに

今回はベイズの定理を用いて、検査の精度と実際の罹患率の関係を見てみました。
ほとんど100%に近い検査精度がないと、かえって現場に混乱をきたしてしまいそうですが、理論的にそんな検査は存在しません。

おとなしく自粛するのが、感染防止の近道のようですね。